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最高裁判所第二小法廷 昭和29年(オ)62号 判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鍛冶利一の上告理由第四点(前の部分)について。

裁判上の和解は、その効力こそ確定判決と同視されるけれども、その実体は、当事者の私法上の契約であつて契約に存する瑕疵のため当然無効の場合もあるのであるから、その有効無効は、和解調書の文言のみに拘泥せず一般法律行為の解釈の基準に従つてこれを判定すべきものである。本件において、所論(イ)乃至(ト)の点についての上告人の主張は、原審の認めなかつたところであり、従つて所論和解条項中、一の赤斜線の箇所、二の赤斜線の箇所を除いた他の部分及び三の黒斜線の箇所は、いずれも特定することができないばかりでなく、本件和解は、実地についても特定し得ないものであり、又、内容の点においても被上告人には判つていなかつたというのであるから、本件和解の目的物は確定し得ないこととなつて、私法上の和解契約は、これを無効とせざるを得ないものといわなければならない。論旨は、なお、債務名義として強制執行ができるかどうかということは、和解契約の成否とは関係がないというけれども、本件の和解は、執行ができないから無効なのではなく特定し得ないから無効なのであり、その結果執行もできなくなるに過ぎないのである。されば原審の判断は正当であり、論旨は、いずれも採用することができない。

上告代理人加藤定蔵の上告理由第一点について。

論旨中、本件和解契約の効力に関する所論の理由ないことは、鍛冶利一の上告理由第四点(前の部分)に対して説示したとおりである。

その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎 裁判官 池田克)

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